ウイスキーは大麦、ライ麦、小麦、オート麦、トウモロコシなど、さまざまな穀物を原料として作られています。また、製造方法も多岐にわたります。例えば、蒸留方法には単式蒸留機(ポットスチル)やカフェ式連続式蒸留機があります。さらに、ウイスキーはスコットランドからアメリカまで、さまざまな地域で造られています。
これらの原料の違い、製造方法、そして地域の違いによって、ウイスキーは多種多様に分類されます。
今回は、「原料や製造方法の違いによるウイスキーの種類」と「産地の違いによるウイスキーの種類」の2つに分けて、ウイスキーの種類について詳しく解説します。皆さんが自分好みのウイスキーを見つけるお手伝いができればと思います。
原料や製造方法の違いによるウイスキーの種類
ウイスキーとは、「穀物を原料とし、蒸留された後、木樽で長期熟成したお酒」です。しかし、ウイスキーには原材料や製造方法の違いにより、さまざまな種類が存在します。
それでは、原材料や製造方法の違いによるウイスキーの種類について解説します。
モルトウイスキー
「モルト(malt)」とは英語で大麦麦芽を意味します。
モルトを100%使用して作られたウイスキーを「モルトウイスキー」と呼びます。
モルトウイスキーは、ポットスチルという単式蒸留機で蒸留して作られるウイスキーです。通常、異なるポットスチルを使い、2回蒸留して作られます。
モルトウイスキーにはさらにいくつかの種類があるので、それぞれについて解説していきます。
シングルモルトウイスキー
「シングル」というのは「単一の蒸留所で瓶詰めされた」という意味です。
したがって、「シングルモルトウイスキー」は、単一の蒸留所でモルト原酒のみを使用してボトリングされたウイスキーを指します。
同じモルトウイスキーでも樽ごとに若干の違いが出ることが多いため、複数の樽のモルトウイスキーをヴァッティング(ブレンディング)してからボトリングすることが一般的です。
シングルモルトウイスキーの最大の魅力は、蒸留所ごとの個性を楽しめることです。
蒸留所の気候風土や製造方法の違い、仕込み水、使用する原料にはそれぞれの蒸留所のこだわりが詰め込まれており、1つとして同じものはないほど個性的です。それぞれの蒸留所が代表作として世に送り出しているのが「シングルモルトウイスキー」です。いわば”蒸留所の顔”とも言えます。
シングルモルトウイスキーの代表的な銘柄としては、サントリーウイスキーの「白州」やニッカウヰスキーの「シングルモルト宮城峡」などが挙げられます。
ブレンデッドモルトウイスキー
「ブレンデッドモルトウイスキー」とは、複数の蒸留所のモルト原酒をヴァッティング(ブレンディング)して作られたウイスキーです。異なる個性がバランスよく調和し、新しい個性を楽しむことができます。
代表例としては、「竹鶴ピュアモルト」が挙げられます。
ちなみに、「竹鶴ピュアモルト」の「ピュアモルト」は100%モルトで作られたウイスキーを意味します。そのため、ブレンデッドモルトを指すこともあれば、シングルモルトを指すこともあります。この言葉は日本独自のもので、世界のウイスキーの多くがブレンデッドウイスキーであったため、日本のウイスキー製造者や販売者が「モルト」を強調する目的で使い始めました。
「竹鶴ピュアモルト」はニッカの余市蒸留所と宮城峡蒸溜所のモルト原酒をヴァッティングして作られたウイスキーとなっています。
シングルカスクとシングルモルトの違い
シングルモルトと混同されやすいのがシングルカスクですが、「シングルカスク」とは、単一の木樽で熟成された1樽の原酒のみを瓶詰めしたモルトウイスキーを指します。樽は英語で「カスク(cask)」と呼ばれることが多いですが、「バレル(barrel)」も同様に樽を意味するため、シングルカスクはシングルバレルと呼ばれることもあります。
シングルカスクの魅力は、ラベルに記載されているナンバーによって個性が異なることです。ウイスキーは同じ銘柄で同じ原料、製法で作られても、熟成される樽によって味わいが変わるため、シングルカスクウイスキーは”一期一会”のウイスキーとも言えます。
シングルカスクがリリースされるのは非常に稀です。1樽のみから瓶詰めするため、本数が限られ、通常は数百本の限定販売となります。そのため、シングルカスクはとても高価で希少性が高く、ウイスキーマニアに人気があります。
シングルカスクの代表例としては、過去にニッカの余市蒸留所から発売された「余市10年 シングルカスク」が挙げられます。
カスクストレングスとは?
ここで、ウイスキーの分類とは少し異なりますが、「カスクストレングス」について説明します。「ストレングス(strength)」は英語で「強さ」を意味しますが、ここでの強さとはアルコールの強さを指します。
つまり、「カスクストレングス」とは加水などの手を加えず、樽のままのアルコール度数でボトリングしたウイスキーのことです。ほとんどのウイスキーは瓶詰めされる前に水を加え、アルコール度数や容量を標準比率に引き下げますが、カスクストレングスはそれを行いません。
カスクストレングスの代表例としては、2023年にメーカーズマークから発売された「メーカーズマーク カスクストレングス 2023」が挙げられます。通常のメーカーズマークはアルコール度数が45%ですが、メーカーズマーク カスクストレングスは度数が54.8%となっています。
カスクストレングスは加水せずにボトリングするため、樽によって異なりますが、およそ54%~57%程度のアルコール度数となっています。
グレーンウイスキー
「グレーンウイスキー」とは、トウモロコシやライ麦、小麦などを原料とし、モルトを酵素として加え、連続式蒸留機で蒸留してつくられるウイスキーのことです。
原材料の穀物の種類や比率によって味が変わってきます。
アメリカンウイスキーの中で人気な「バーボンウイスキー」もトウモロコシを主原料とするグレーンウイスキーです。
グレーンウイスキーの蒸留に使われる連続式蒸留機は取り出すスピリッツのアルコール度数を95%程度まで上げることができ、短時間で大量生産が可能となっています。
香りはモルトウイスキーに比べて弱い傾向があり、クリーンな酒質になる傾向があります。また、グレーンウイスキーはモルトウイスキーとブレンドするために製造されることも多いです。
1つ1つが個性豊かなモルトウイスキーは「ラウド・スピリッツ(声高な酒)」と呼ばれていますが、それとは対称に、グレーンウイスキーは風味が軽くまろやかで、ブレンドすると飲みやすくなることから、「サイレント・スピリッツ(寡黙な酒)」と呼ばれています。
シングルグレーンウイスキー
先ほど紹介したシングルモルトウイスキーと同様に、「シングルグレーンウイスキー」は、単一の蒸留所でグレーン原酒のみを瓶詰めして作られたウイスキーです。
代表例はサントリーの知多蒸留所でつくられる「知多」やキリンの富士御殿場蒸留所でつくられる「シングルグレーン 富士」が挙げられます。軽やかな味わい、ほのかな甘い香りが特徴となっています。
ブレンデッドウイスキー
「ブレンデッドウイスキー」は、個性の強いモルトウイスキーと穏やかでやさしい味わいのグレーンウイスキーをブレンドし、お互いの長所を引き出したマイルドで飲みやすいウイスキーです。
ブレンデッドウイスキーの魅力は、「ブレンダーの技」が色濃く反映されているところです。シングルモルトは蒸留所の気候風土や仕込み水、原料の違いなど、その土地が造り上げる個性を楽しめる点が魅力ですが、ブレンデッドウイスキーはブレンダーの匠の技によってブレンドされたいわば「ブレンダーの芸術作品」のようなものです。
代表例としては、「響」が挙げられます。
産地の違いによるウイスキーの種類
これまでは、原材料や蒸留方法の違いによるウイスキーの分類について紹介しました。
ウイスキーは産地によってもさまざまな種類があります。産地によって原料や製法が異なるためです。
それでは、産地の違いによるウイスキーの種類を紹介していきます。
スコッチウイスキー
「スコッチウイスキー」は、イギリスを構成する4地域のうちの1つであるスコットランドで作られるウイスキーです。
スコッチウイスキーは、ウイスキー全体の消費量の約6割を占める、まさにウイスキーの王様的存在です。「ウイスキー」と聞くとスコッチウイスキーを思い浮かべる人も多いかもしれません。
麦芽を乾燥させる際に使用するピートにより、香りが強く、スモーキーなフレーバーが特徴です。
クリアな飲み口に芳醇な香りやスモーキーな燻製臭など、個性豊かなスコッチウイスキーが多くあります。
産地 | スコットランド |
スコッチウイスキーの定義 | ・スコットランドの蒸留所でつくられる ・水、酵母、モルトおよびその他の穀物を原料とする ・容量700ℓ以下のオーク樽に詰める ・水とスピリッツカラメル以外の添加は不可 ・アルコール度数94.8%以下で蒸留する ・スコットランド国内の保税倉庫で3年以上熟成させる ・アルコール度数は最低40%以上で瓶詰めする |
主な製品の種類 | ・モルトウイスキー ・グレーンウイスキー ・ブレンデッドウイスキー |
特徴 | ・ピートを使用し、スモーキーなフレーバーのウイスキーが多い ・スコッチの中でも6つの地域に分かれている ・歴史が古く、15世紀には存在した ・スコッチウイスキーの8割はブレンデッドウイスキー |
スコッチウイスキーの代表例 | ・ザ・マッカラン12年 ・ボウモア12年 ・グレンフィディック12年 ・グレンリベット12年 |
スコッチウイスキーの種類
種類 | 原料 | 蒸留法 |
---|---|---|
モルトウイスキー | モルト | 単式蒸留2回(3回) |
グレーンウイスキー | モルト、トウモロコシ、ライ麦など | 連続式 |
アイリッシュウイスキー
アイリッシュウイスキーは、アイルランドで製造されているウイスキーです。
過去には、スコッチウイスキーは全ウイスキー消費量の約6割を占めていた時代もありましたが、現在はスコッチ、バーボン、ジャパニーズウイスキーと比べるとシェアがやや低めです。
アイリッシュウイスキーはスムースで酒質がライトなため、非常に飲みやすいのが特徴です。香り豊かで穏やかな味わいが多く、癖が少ないため、初心者にもおすすめです。
産地 | アイルランド |
アイリッシュウイスキーの定義 | ・穀物類を原料とする ・麦芽に含まれる酵素により糖化、酵母の働きにより発酵 ・蒸留液から香りと味を引き出せるよう、アルコール度数94.8%以下で蒸留 ・木製の樽に詰める ・アイルランド共和国、または北アイルランドの倉庫で3年以上熟成 |
主な製品の種類 | ・ポットスチルウイスキー ・モルトウイスキー ・グレーンウイスキー ・ブレンデッドウイスキー |
特徴 | ・スムースで酒質はかなりライト ・ピートをほとんど使わない ・未発芽の大麦を使うことがある ・表記が「Whiskey」 |
アイリッシュウイスキーの代表例 | ・ジェムソン ・バスカー ・カネマラ |
アイリッシュウイスキーの種類
種類 | 原料 | 蒸留法 |
---|---|---|
ポットスチルウイスキー | モルト(大麦麦芽)+大麦(未発芽)、オート麦、小麦、ライ麦 | 単式蒸留3回(2回) |
モルトウイスキー | モルト | 単式蒸留3回(2回) |
グレーンウイスキー | モルト、トウモロコシ、ライ麦など | 連続式 |
ジャパニーズウイスキー
ジャパニーズウイスキーは、スコッチウイスキーをお手本に作られています。これは、ニッカの創業者で「日本のウイスキーの父」と呼ばれる竹鶴政孝がスコットランドに留学し、日本でウイスキー製造が始まったことに起因します。
ジャパニーズウイスキーの歴史は、世界5大ウイスキーの中で最も浅いです。
しかし、ジャパニーズウイスキーはスコッチウイスキーと全く同じではありません。日本の風土や嗜好に合わせて、スモーキーさを抑え、繊細でマイルドな味わいに仕上げられています。
また、日本におけるウイスキーの法定義は酒税法に基づいているため、スコッチのような表示や製造に関する細かな規定はありません。そのため、世界でジャパニーズウイスキーの人気が高まるとともに、「純日本産ではないジャパニーズウイスキー」が市場に出回ってしまいました。
そこで、日本国内でジャパニーズウイスキーとその他のウイスキーを区別するために、日本酒造組合は2021年2月にジャパニーズウイスキーの定義を自主基準として制定しました。
産地 | 日本 |
日本におけるウイスキーの定義 (酒税上の定義) | ・発芽させた穀物や水を原料とし、糖化・発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの ・蒸留はアルコール分95%未満で行うこと ・上記にアルコール、スピリッツ、香味料、色素または、水を加えたもの ・穀物由来の原酒混和率が10%以上であること |
ジャパニーズウイスキーの表示基準 (日本洋酒酒造組合の自主基準) | ・原材料は麦芽、穀物、国内で採水された水に限り、麦芽の使用は必須 ・蒸留における留出の際のアルコール分は95%未満 ・3年以上熟成 ・糖化、発酵、蒸留は国内で行う。 ・容量700ℓ以下の木製樽に詰める ・国内で瓶詰めし、充填時のアルコール分は40%以上 ・色調整のためのカラメルの使用は認める |
主な製品の種類 | ・モルトウイスキー ・グレーンウイスキー ・ブレンデッドウイスキー |
特徴 | ・5大ウイスキーの中で一番歴史が浅い ・スコッチをお手本にして造られている ・ピートは使ったり使わなかったりする ・日本人好みの繊細でマイルドな味 |
ジャパニーズウイスキーの代表例 | ・白州 ・山崎 ・シングルモルト余市 ・竹鶴ピュアモルト |
ジャパニーズウイスキーの種類
種類 | 原料 | 蒸留法 |
---|---|---|
モルトウイスキー | モルト | 単式蒸留2回 |
グレーンウイスキー | モルト、トウモロコシ、ライ麦など | 連続式 |
アメリカンウイスキー
アメリカンウイスキーとは、アメリカ合衆国で製造されるウイスキーの総称です。ケンタッキー州発祥のバーボンウイスキーが有名です。
アメリカンウイスキーには「バーボンウイスキー」や「テネシーウイスキー」など、さまざまなジャンルがあり、それぞれが原料の比率や蒸留・熟成の方法などが細かく定められています。
アメリカンウイスキーは、アメリカに入植した「スコッチ・アイリッシュ」がウイスキーを作り始めて誕生しましたが、ウイスキー戦争や禁酒法などを経て、スコッチやアイリッシュとは異なる唯一無二のウイスキーになりました
アメリカンウイスキーは、原料として主にトウモロコシやライ麦が使われるため、独特の甘みやスパイシーさ、ほろ苦さが特徴です。
産地 | アメリカ合衆国 |
アメリカンウイスキーの定義 | ・穀物類を原料とする ・アルコール度数95%以下で蒸留する ・オーク樽で熟成する ・アルコール度数40%以上で瓶詰めする |
主な製品の種類 | ・バーボンウイスキー ・テネシーウイスキー ・ライウイスキー ・コーンウイスキー |
特徴 | ・バーボンウイスキーやテネシーウイスキーなどジャンル分けされている ・樽香が強い傾向がある ・独特の甘さやスパイシーさがある |
アメリカンウイスキーの代表例 | ・ジャックダニエル ・メーカーズマーク ・ウッドフォードリザーブ ・ブラントン |
アメリカンウイスキーの種類
種類 | 原料 | 蒸留法 |
---|---|---|
バーボンウイスキー | トウモロコシ51%以上、ライ麦、小麦、モルトなど | 連続式 |
テネシーウイスキー | トウモロコシ51%以上、ライ麦、小麦、モルトなど | 連続式 |
ライウイスキー | ライ麦51%以上、トウモロコシ、小麦、モルトなど | 連続式 |
コーンウイスキー | トウモロコシ80%以上、モルトなど | 連続式 |
カナディアンウイスキー
カナディアンウイスキーは、アメリカの禁酒法時代に飛躍的な発展を遂げた世界5大ウイスキーの一つです。
アメリカの禁酒法時代、カナダは輸出を禁止しなかったため、大量のウイスキーを製造し、アメリカに密輸しました。その結果、カナディアンウイスキーはアメリカ市場に広く浸透し、5大ウイスキーの一つとしての地位を確立していきました。
カナディアンウイスキーは、5大ウイスキーの中でも特に癖が少なく、ライトで柔らかな香りと味わいが特徴です。また、5大ウイスキーの中で唯一、香り付けが許可されているため、ユニークなウイスキーに仕上がっています。
その飲みやすさから、カクテルの材料としても多く使用されます。
産地 | カナダ |
カナディアンウイスキーの定義 | ・カナダで熟成を行う ・穀物を原料に、麦芽などで糖化、酵母などで発酵し、蒸留したもの ・容量700ℓ以下の木樽で3年以上熟成させる ・アルコール度数40%以上で瓶詰めする ・カラメルまたはフレーバリングの添加は可能 |
主な製品の種類 | ・フレーバリングウイスキー ・グレーンウイスキー ・カナディアンブレンデッドウイスキー |
特徴 | ・フレーバリングができるのでユニーク ・5大ウイスキーの中でも特に癖が少ない ・カクテルの材料として欠かせない |
カナディアンウイスキーの代表例 | ・カナディアンクラブ ・クラウンローヤル |
カナディアンウイスキーの種類
種類 | 原料 | 蒸留法 |
---|---|---|
フレーバリングウイスキー | ライ麦、トウモロコシ、ライモルト、モルトなど | 連続式 |
グレーンウイスキー | モルト、トウモロコシなど | 連続式 |
まとめ
今回はウイスキーの種類について解説しました。
ウイスキーは原材料や原産地によって個性が大きく異なり、それぞれが独自の魅力を持っています。
この記事が、皆さんが新しいウイスキーを試すきっかけになったり、お気に入りのウイスキーを見つける手助けになれば嬉しく思います。
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